インスリンとの提携

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夜に指示を出しておきながら、朝早く「どうなった」と見にくるものだから、時間もないし、とりあえずいわれたとおりの改善をしておく。 すると、「なんで俺のいったとおりにやる」といって怒る。
言われた方としては、なんと理不尽なとも思うが、真意は「いわれたとおりにやるのではなく、自分で知恵を出してもっとうまくやれ」という叱陀激励だ。 事項だけを守っていると、「そのとき、その場、その工程に1番フィットしているのは何かを考えてやっているのか」と叱られる場合もあった。
T生産方式を指導する人のなかには、いろいろなタイプの人がいる。 まさに手とり足とり、子どもにものを教えるように細かい指示を出す人もいる。
教えてもらう筆者が生産技術部長になったときも、「1から1Oまですべてをお膳立てするのではなく、現場の知恵を活かして一緒にやるように」とよくいわれたものだ。 仕事は、いわれたとおりにやるだけではなく、考える力つまり「知恵」を使ってやるものだというのが、O氏の考え方だ。
O氏は、ドラッカ流の「知識労働者」としてのスタッフのみに考えるのを求めるのではなく、働く人すべてに対し、「考えて仕事をする」ように求め、「考える環境」を整え、実践した。 そこには「人間の知恵は無限である」という信頼と、知恵をいかに結集するかで企業の成長も決まるという信念がある。
Tが今日あるのは、まさにトップから現場の1人ひとりにいたるまで、誰もが5O年以上にわたって、知恵を出し、日々改善を積み重ねてきたからにほかならない。 市場がめまぐるしく変化している時代、多品種少量生産は当たり前の話だ。
大型機械を使っていると、段取り替えに時間がかかるため、多品種少量生産の場合はどうしてもコスト高になってしまう。 「できるだけ同じ型のものを集めてつくるように努力している」という答えが返ってきた。

同じ型のものばかりが売れるはずもなく、結局は在庫になるほうが多い。 多品種少量生産どころか、モノによっては1個ずつ違うものが求められる時代では、段取り替えをいかに短い時間でやるかが重要だ。
ところが、「段取り替え」の方法はどこにも売ってはいない。 知恵を出すしかない。
似たような話を、N氏がしていた。 同氏は、実験装置に徹底的にこだわり続け、誰しもが不可能と思っていた青色発光ダイオドの開発に成功した人だ。
彼の著書に「市販の実験装置を安易に買ってくるだけでは、実験装置そのもの味や役割がわからない。 まして実験が失敗したとき、実験装置そのものの不気がつかない。
段取り替えに要する時間を徹底的に短くする試みにより、それこそ1個づくりを実現する必要がある。 どうやって実現するか。
頭のなかでいくら考えても無理である。 職場の知恵を結集して、職場で試行錯誤を重ねるしかない。

大切なのは、どうやってみんなに知恵を出させるか、どうやって知恵を形に変えていくかというノウハウだ。 O氏は困ったとして、問題が起きるとラインを止め、不良をみんなの見えるところに出すなど、困る状況をつくり出した。
そうやって知恵の出る環境づくりに腐心した。 さらに個人個人ではなく、小集団で改善提案を進め、現場に根ざしたアイデアを形にする環境を整えた。
人は困らなければ知恵は出ない。 どんなにまちがった作業をやっていようが、はたから見ておかしなことをやっていようが、それで困るという状況がなければ、自分のやっているまちがいには気づかないものである。
本人にとっては、現状はよい状態であり、居心地もよい。 それを変えようという気持ちなど起こるはずがない。
時代が急速に変化し、相手が日々進歩している事態を考えると、これでは進歩しないばかりか、どんどん退歩しているのと同じだ。 やがて最終的にどうにもならなくなって、「変わらなければ」と思ったとしても、もはや手遅れになっているケースがほとんどだ。
モノをつくるにしても、たくさんの人がいて、最新の設備があって、材料を買うお金もふんだんにあれば、モノをつくるのは実にたやすい。 モノをつくる過程で、ムダが生じようが、少々の在庫が生まれようが、とりあえずモノが売れ、当座のお金に困らなければ、わざわざ「こんなつくり方でいいのか」などと考える人はいない。
人もいない、設備もない、材料もない、お金もないという状態で、「さあ、モノをつくりなさい」といわれたらどうだろうか。 とすれば、必死になって知恵を出すしかない。
「優秀な人さえいれば」と、ないものねだりをするのではなく、いまいる社員をどう使おうかと考える。 社員の採用がむずかしければ、やれるように仕事のやり方に改善を加える。
新たな設備投資がむずかしければ、古い機械に手を加えて、いかに使いやすくするかを考える。 はたから見ると、大変そうだが、実はこうして知恵をめぐらすなかで、真の競争力が生まれてくる。

よいモノも生み出せる。 何もなかった時代ならともかく、今日のように企業も人も比較的恵まれた状態にいると、なかなか困った状態に自分を置くのはむずかしい。
本来なら進んで困った状態をつくり出せばよいのだが、そこまで「危機感」を持って、自分を追い込むのはなかなかできるものではない。 そうなると、誰かが誰かに困った状態をつくり出してやる。
つまり、困らせるから、知恵が出る。 そういう状況をつくる。
部下に何かをやらせるにしても、すべてのお膳立てはしない。 自分で考える余地をいかに与えるかが、必要になる。
「機械に人間の知恵をつける」は、O氏の有名な言葉だ。 異常が起き、不良品を生産したときに、そばに人間がついていて停止させるのではなく、機械自身が「善し悪しを判断」して自動的に停止する装置を備えた機械を「自働化機械」と呼ぶ。
機械メーカーが販売するものには、ここまでの自動停止機能はついていない。 T生産方式では、新しい機械であれ古い機械であれ、すべて機械に現場の改善を通じて、自動停止機能などをつける。
「ニンベンのある自働機械」「機械に人間の知恵をつける」という言い方をする。 ムダを徹底して排除し、機械の「動きを働きにする」ように目指したものだ。
機械と知恵の関係では、O氏は「設備に何か違った知恵がついていないと競争には勝てない」という言い方もしている。 「米国の自動車メーカーは、自国でつくった機械で生産をしているのに対し、Tは米国の機械を船賃などの諸費用をかけて運んでくる。
米国の自動車メーカーが使っているのと同じ機械をくらざるを得ない。 少しでも安くしようとすれば、人件費を抑えるしかない。

それでは日本はいつまでも低賃金に甘んじるしかない。 競争に勝つには、米国が3人でやっている仕事を、ひとりでやる工夫が必要だ。
買ってきた機械をそのまま使っていたら、いつまでも世間並みだ。 機械に「職場の知恵」を1つ2つていけって仕事が2人。
他社との競争に勝つには、機械に他社とは違った職場の知恵・現恵をつけるしかない。 買った機械を説明書どおりに使って、説明書どおりにできるのは当たり前の話だ。
こんな仕事をしていたらOのカミ落ちる。 「改善の効果はカネと知恵の総和である」という言い方もする。
何か改善をしようとするとき、知恵を出さないとお金ばかりがかかってしまう。 いくらお金をかけようとも、知恵がついていなければ、所詮人並みで終わってしまう。

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